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大分地方裁判所 昭和50年(ワ)451号 判決 1977年10月26日

原告

佐藤二六

被告

東雲輸送株式会社

主文

一  原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し金一四四〇万二〇〇〇円及びこれに対する昭和五〇年一一月一四日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言申立。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張する事実

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和四六年一〇月二日午前二時二五分頃

(二) 発生場所 静岡県清水市渋川五二八番地国道一号線上

(三) 加害車 大型貨物自動車(足立一う七一―三九号)

運転者 被告斎藤定之(以下被告斎藤という。)

保有者 被告東雲輸送株式会社(以下被告会社という。)

(四) 被害車 大型貨物自動車(岐一い二八〇〇号)

運転者(被害者)原告

(五) 事故の態様 被告斎藤は、加害車を運転して本件事故現場に至り、突然転回運転をし、折から対面進行してきた原告運転の被害車に加害車を衝突させた。

(六) 傷害 原告は、本件事故により、右股関節外傷性脱臼、左踵骨開放性骨折の傷害を受け、腰神経叢障害、両股関節両足関節の運動制限等の後遺症をのこし、自立歩行、起立位、座位不能の状態にある。

2  帰責原因

被告会社は加害車を保有し、自己のため加害車を運行の用に供していたから、自賠法三条により原告の蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

被告斎藤は、被告会社の従業員であるが、車両の往来の激しい国道一号線において、前方注視を怠り、突然加害車を転回運転して本件事故を発生させたものであつて、民法七〇九条により原告の蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 入院諸雑費 金四三万八〇〇〇円

原告は、前記傷害の治療のため入院を余儀なくされ、事故当日から昭和五〇年一〇月一日現在までで満四年になる。

入院に要する諸雑費は少なくとも一日金三〇〇円を必要とするから、その合計額は金四三万八〇〇〇円となる。

(二) 休業補償 金三二六万四〇〇〇円

原告は、事故当時、岐阜県美濃加茂市古井町古井二七六八番地の一、訴外山田運送株式会社に勤務し、一ケ月金一三万円の給与を得ていた。原告は、本件事故による入院期間中、訴外会社から何らの支給を受けず、わずかに労災保険休業補償金として一ケ月金六万二〇〇〇円の支給を受けているのみである。よつて、事故当日から四年間の休業損害金は、この間の給与上昇分を無視して計算しても金三二六万四〇〇〇円となる。

(三) 慰藉料 金六〇〇万円

本件事故による負傷により、原告は四年間の入院生活を余儀なくされ、その精神的苦痛は大きく、これを慰藉するには金三〇〇万円をもつて相当とする。

また、前記のとおり、原告は、本件事故による受傷に原因する両下肢の著しい運動制限、自立歩行不能、起立位、座位不能の後遺症をのこし、右後遺症の程度は後遺障害等級第五級に相当する。右後遺症による原告の精神的苦痛を慰藉するには金三〇〇万円をもつて相当とする。

(四) 逸失利益 金四七〇万円

原告の蒙つた後遺症のため、原告は労働能力の七〇パーセントを喪失した。前記のとおり、原告は、毎月金一三万円の収入を得ていたから、原告は、右後遺症のため毎月金九万一〇〇〇円の得べかりし利益を喪失した。原告は、労災保険から障害補償金として一ケ月約七万円を受けているから、これを控除すれば、原告の一ケ月当りの喪失利益は、金二万一〇〇〇円となる。原告は、昭和五〇年一〇月一日現在満三五歳であるから、原告はなお、三二年間就労可能であり、後遺症のために喪失した利益をホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除してその現価を算出すれば、次のとおりとなる。

2万1000円×12×18.806=473万9112円

但し、18.806は法定利率による単利年金現価表13年の係数

このうち、原告は金四七〇万円を請求する。

(五) 特記事項

原告は、退院後、前記後遺症のため便所及び浴槽を特別に改装せねばならず、これに要する費用は膨大になる。

しかし、その具体的算出が困難なため、右事情を前記慰藉料額算定の一要素として特記する。

(六) 弁護士費用 金五〇万円

原告は、原告訴訟代理人及び法律扶助協会との契約により、実費手数料として金九万円、成功報酬として認容額の一五パーセントを支払うことを約した。右費用中、被告らは金五〇万円を支払うのが相当である。

4  損害の填補 金五〇万円

原告は、自賠責保険から本件事故に関する保険金五〇万円の支払を受けた。

5  結論

以上損害額合計金一四九〇万二〇〇〇円から、右填補を受けた金五〇万円を差引き、金一四四〇万二〇〇〇円及びこれに対する昭和五〇年一一月一四から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを被告らに求めるため、本訴請求に及んだ。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項中原告主張の日時場所において、加害車と被害車が衝突したことは認める。その余の事実は不知。

2  同第2項中、被告会社が加害車を保有し、自己のためにこれを運行の用に供していたこと、被告斎藤が被告会社の従業員であつて加害車を運転していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同第3項の事実は不知。

4  同第4項の事実は認める。

三  抗弁

1  本件事故は、左記のとおり、原告の一方的過失により発生したものであつて、被告斎藤に過失はなく、加害車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつた。

2  被告斎藤は、原告主張の日時場所において、前後左右を注視しつつ時速三キロメートル以下の速度で加害車を転回運転していたところ、突然対向してきた原告運転の被害車がかなりの速度で進行して加害車に衝突した。加害車は、八トン車であつて、大型車両であり、本件事故現場に中央分離帯があつて、一度で転回することができず、三回前進後退をくり返して回転運転していた時に本件事故が発生した。一方、被害車の進路は、事故現場手前の約五〇〇メートルまで見透しがきき、加害車を運転していた被告斎藤は左前方の被害車の進行してきた道路に車両がないことを確認して転回運転を開始した。衝突現場には、加害車のスリツプ痕は認められず、原告は、被害車を居ねむり運転して本件事故を発生させたものである。

3  原告の勤務していた会社である訴外山田運送株式会社は、本件事故について、原告に一方的過失があることを認め、被告会社に陳謝し、積荷の損害につき昭和四七年五月一七日被告会社に金一一万円を支払つた。

4  仮りに、被告らに、本件事故による損害を賠償する責任があるとしても、本件事故以来満三年を経過し、すでに消滅時効が完成しているので被告らはこれを援用する。

四  抗弁に対する認否

1  被告らの免責の抗弁事実は否認する。

2  消滅時効援用の抗弁については、次のとおり消滅時効は完成していない。即ち、原告は、本件事故発生以来、昭和五〇年一〇月三一日国立別府病院を退院するまで、四年余に亘り入院生活をしてきた。退院後も、前記後遺症により歩行困難となつたが、その症状固定時期は昭和五〇年七月ごろである。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項中原告主張の日時、場所において加害車と被害車が衝突したこと、同第2項中被告会社が加害車を保有し、自己のためにこれを運行の用に供していたこと、被告斎藤が被告会社の従業員であつて、加害車を運転していたことは、いずれも当時者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の被告斎藤の過失及び被告会社主張の自賠法三条但書の抗弁について検討する。

1  成立に争いのない乙第一、第二号証並に被告斎藤定之本人尋問の結果によれば

本件事故現場は、幅員約二二メートル、中央分離帯により上下線が区別された東西に通じる道路(国道一号線)、右道路に南から北に通じる道路がT字型に交差し、信号機により交通整理の行なわれている交差点内であり、転回が禁止されておらず、夜間であつても照明があつてやや明るい場所であるが、被告斎藤は、加害車(ニツサン四三年式七・五トン車)を運転して、西から東に向けて国道一号線の北側車線を進行し、本件交差点に至り、同交差点内で転回するため、青の対面信号に従い同交差点内に入り、一旦停止して国道一号線の南側車線上に対面進行してくる車両の進行を妨害しないように対面信号が赤に変るのを待つた。被告斎藤は、国道一号線南側車線上約七〇メートル前方に被害車(三菱四三年式一一トン車)が東から西へ本件交差点に向けて進行してくるのを認めたが、そのころ、対面信号が赤に変つたので転回のため時速約三乃至五キロメートルの速度で徐徐に右折しはじめ、車体が長かつたため、一度で転回することができず、右道路南側端に至り、同所から右に転把しつつ約一メートル後退し、同交差点内、加害車の位置が国道一号線の南側車線をやや斜めにふさぐ位置から更に右折し転回しようとしたが、この時、対面信号が青に変つた。その直後、被害車は、国道一号線南側車線を制動措置をとることなく可成りの速度で東から西に向けて進行してきて同交差点内に進入し、前記のとおり転回中の加害車左側面中央付近に衝突し、加害車を右に横転させた

ことが認められる。

2  成立に争いのない乙第三号証並に原告本人尋問の結果中には、原告は、本件交差点内で被告斎藤運転の加害車が転回中であるのを認めたが、同車が被害車が直進できる位置まで後退し、その時対面信号が青に変つたので直進した。しかるに加害車が前進してきたので危険を感じ、急制動の措置をとつたが間に合わず、加害車と衝突した旨の供述乃至記載がある。

3  しかし、本件事故直後の実況見分調書である成立に争いのない乙第一号証によれば、警察官が実況見分をした際、車両は衝突停止したままの位置にあり、本件事故現場にはスリツプ痕は認められない旨明記されていること、衝突状況については衝突地点にガラス破片、破壊された部品が散乱し、路上に燃料の軽油が流れ、横転した加害車の積荷が路上に崩れ落ち、被害車前面は大破して走行不能の状態となり、原告は自力で脱出できず、救急隊員が扉を破壊して救出した旨記載されていること、さらに、事故を直接目撃した訴外田中章夫立会のもとに行なわれた実況見分調書である乙第二号証には、被害車は、同交差点内で転回中の加害車が、国道一一号線の南側車線端から後退中に対面信号が青に変つたが、その時止ることなく同交差点内に進入してきて加害車左側面に衝突した旨記載されていることに照らせば、これを直ちに採用することはできず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

三  右事実によれば、本件事故現場は、他の車両の正常な通行を妨害するおそれのない限り転回が許された場所であるところ、被告斎藤は、対面信号の青の表示に従つて同交差点内に入り、一旦停車して対面信号が赤に変るのを待つて転回したものであつて、国道一号線の南側車線を通行してくる車両は当然同交差点手前で右信号機の赤の表示に従つて停止すべき義務があるから、その停止時間中に転回しようとしたことは道路交通法上許された行為というべきである。

被告斎藤は、加害車が大型車であつたため、一度で転回することができず、一旦道路の南端に至り、そこから約一メートル後退して転回を終えようとする時、対面信号が青に変つたけれども、道路の状況からみて被告斎藤運転の加害車は、後退して直ちに転回を終了しうる状態にあつたと認められるから、対面信号が赤の状態にあるうちに転回を終了しなかつたとしても何ら対面進行してくる車両の交通を妨害したとはいえない。従つて、被告斎藤の転回には道路交通法上何ら違反することはなく、その他道路の状況等諸般の事情を考慮しても被告斎藤の加害車運転行為に本件事故の原因となる過失を認めることができない。

四  他方、原告は、前記認定の事実によれば、本件衝突事故が可成り激しかつたことからみて、被害車は衝突直前相当の速度で進行し、同交差点内に入つたものと認められ、原告は、対面信号が赤を表示しているのに徐行せず、一旦停止もせず、これを無視して相当の速度で被害車を運転して同交差点に進入したものといわざるを得ない。

また、道路の状況からみて、対面信号が赤の表示をしている本件交差点内で加害車が転回中であるのを当然目撃し得る状態にあるのに前記のとおりの相当の速度で同交差点内に入つたことは、前方注視義務、安全運転義務を怠つたものというべく、本件事故は、これらの原告が自動車運転者として当然なすべき義務を怠つたために発生したものと認められ、原告の一方的過失による事故と判断せざるを得ない。

五  被告斎藤本人尋問の結果中には、被告斎藤は、加害車のエンヂンが具合が悪かつたため、会社に引返えすべく、本件事故現場で加害車を転回させようとしていた旨の供述があり、加害車に構造上の欠陥があつた疑いがあるけれども、前記認定の事実によれば、本件事故は、右加害車の構造上の欠陥とは何らの関係もなく、前記原告の一方的過失によつて発生したものと認められるからこれをもつて、自賠法三条但書の免責事由の不存在の立証がないとすることはできない。

六  以上のとおりであるから、原告主張の被告斎藤に過失があることの立証はなく、また、被告会社の自賠法三条但書の抗弁は理由がある。よつて、その余の事実について判断するまでもなく、原告の被告らに対する本訴請求は理由がないからいずれもこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 早舩嘉一)

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